Kosuke Nakakura Architects
Kitayama ONE
京都の北山杉と鞍馬石を使用して設計・製作されたコート掛けである。
地域の文化に根ざした自然素材と職人の技術を融合させることで、建築空間に調和するミニマルな家具を実現した。
600年以上の歴史を持つ京都の北山杉は、節のない非常に滑らかな表面を持つことで知られる銘木である。細く真っ直ぐに伸びる杉で、元口と末口の径がほとんど変わらない。中でも「台杉」と呼ばれる独自の剪定技術を用いて育てられた木は特に細身で、北山杉を象徴する存在である。一本の根元から複数の直線的な幹が立ち上がる特異な樹形もさることながら、この木から切り出される丸太は直径30~50mm程度と非常に細く、それでいて規格材の丸棒とは異なり、自然の木肌をそのまま残している。北山杉の産地では近くに大きな河川が流れておらず、舟やいかだを運搬に使えなかったという地理的な要因から、むしろ肩や頭に乗せて運べる範囲で繊細な材を丁寧に育てる文化が熟成されたのである。
設計したコート掛けは、空に向かってまっすぐに伸びる「台杉」をモチーフとしたデザインで、支柱に腕木を組み合わせたシンプルな造形とした。支柱先端の小口は斜めにカットし、美しい年輪が見えるようになっている。あえて断面を見せることで、コート掛けを使う人に、この木が育てられた時間や歴史を感じてもらえるのではないかと考えた。
腕木の接合部には”ひかりつけ”と呼ばれる伝統的な大工の技が使われている。いびつな形同士をぴったりと隙間なく接合する技術で、ほぞの形は手作業で1つ1つ削り出されている。また、製品に掛けるジャケットやスカーフを傷つけることのないように、すべての端部は丁寧にやすりがけされている。
脚部には同じく京都で採掘される「鞍馬石」を使用した。この石には磁流鉄鋼が含まれており、時間の経過とともに酸化して茶褐色に変化するという特徴がある。日本のわびさびの精神を表現する石として、寺院や神社の他、茶室の庭でも重宝されている石である。
支柱は石の底面から座金とボルトで固定し、一般的な工具を使って分解・組立てを行えるようにした。腕を伸ばす方向も、ボルトを締める際に自由に調節することができる。製品としては高さ1800mmと1550mmの2サイズが展開されているが、腕木の数や角度、支柱の長さなどは特注可能である。天然素材を使用しているため、木目や色合い、石の形状には個体差があり、それぞれが一点物のプロダクトとなっている。
Kitayama ONE は、ローカルな素材の持つ歴史や特性を尊重しながら、日常の中に日本の美意識や伝統文化をさり気なく取り込むことを目指したプロダクトである。
Completion:2025.07
Design & Planning:株式会社中倉康介建築設計事務所
Display and Sales:京都アンプリチュード株式会社
Manufacturer:株式会社竹田工務店
Kitayama Cyder:中源株式会社
Photos:株式会社八木スタジオ